2012年01月30日

保釈 (倉田)

どういうわけかよく国選弁護の担当になります。前回は、窃盗事件を繰り返す息子が父親に愛想をつかされた話を書きました。今回はその逆で、ほのぼのとした夫婦愛のお話です。

今回の被告人は26歳の男性(左官)で結婚しています。奥さんは妊娠中です。その男性が友達から一握りの大麻をもらいました。男性は試しに吸ってみたくなり奥さんに内緒でこっそり家で大麻を吸っていたところ、奥さんに見つかって大喧嘩になりました。

奥さんは夫が大麻の中毒になったら大変と思い、「大麻を持ってすぐ警察に自首しなさい。そうしないなら私は離婚します」と迫りました。男性は平和な家庭を壊したくないと思い、大麻を持って警察に自首したところ、逮捕され起訴されました。身体は警察に拘留されたままです。

そこで困ったのが男性の仕事です。男性はまじめに働く左官だったので、親方から信頼されていましたが、身体を拘束されたままでは仕事ができません。親方は、このまま裁判が終わるまで2か月も出勤できない見込みであれば解雇せざるを得ないと言ってきました。

あわてたのは奥さんです。自分が自首を強要したために、思いがけず逮捕されて長期拘留になり、仕事も失いそうになるし、出産が近いのに収入はなくなるし・・・。

そこで、国選弁護人の私に、どうしたらよいか奥さんから相談がありました。私は150万円の保釈金が用意できるならば裁判所に保釈を申請することができると言いました。保釈というのは、裁判所に担保のお金を預けて身体を釈放してもらうことを言います。しかし、奥さんはそんなお金はないと言いました。奥さんは親に借金を申し込みましたが年金暮らしでお金はありません。

私は保釈は諦めるしかないと言いました。ところが数日後、奥さんが150万円を用意できそうだと電話してきました。私はどうやって工面するのかと聞きました。すると東京の消費者金融で借りると言うのです。ただし、確実に保釈金に使用するのであって他の目的には使用しないということを弁護士に証明してもらうことが条件とのことでした。私は予想外のことに驚くとともに、私に借金の責任がかかりはしないかと少々不安でした。しかし、私は奥さんが泣く泣く頼む熱意に打たれて協力することにしました。

裁判が終わるまでの2か月間、年利15%で借金することにしました。私が証明書を東京に送ると、すぐに私の口座に150万円が振り込まれ、男性は保釈されました。保釈されるとすぐに、本人と奥さんからうれしそうな声で感謝の電話がありました。よかったなと思いました。保釈中に逃走しなければ、裁判所から保釈金は帰ってきます。この事件は初犯であるし、自首したのだから必ず執行猶予の判決が出ることは間違いありません。

「雨降って地固まる」の諺のとおり、男性は二度と大麻には手を出さないだろうし、まもなく生まれる子供のためにも、まじめに働いてきっと幸せな家庭を築くことでしょう。私はほのぼのとした夫婦愛を感じました。
posted by kuraben at 16:48| 倉田弁護士