2012年01月16日

親子のきずな (倉田)

今、26歳の男性の窃盗事件の裁判を国選弁護で担当しています。彼は、飲食店にアルバイトで勤務していましたが、店の更衣室に置いてあった従業員の財布から3万円を盗んで逮捕されました。

彼の前歴を調べてみると、窃盗は今回が初めてではありません。18歳のときにはレンタル店でCDを盗んで警察に補導されています。23歳の時には他人のバイクを盗んで逮捕されています。25歳のときには他人の留守宅に忍び込みテレビを盗んで逮捕され、懲役1年、執行猶予3年の判決を言い渡されました。そして、今回また盗みをして起訴されたのです。

執行猶予中にまた罪を犯すと、前回の執行猶予は取り消しになり、今回の犯罪の刑とあわせて服役しなくてはなりません。弁護人である私としては、少しでも刑を軽くしてあげる方法をいろいろ考えました。そのためには、まず、被害者に3万円の弁償をして反省と謝罪の態度を示すことが最低限必要です。

しかし、本人は金を持っていないので、私は父親に電話し「被害弁償のため3万円を出して頂けませんか」とお願いしました。すると、意外なことに、父親は「私はあの子とは親子の縁を切るつもりです。金を出すつもりはありません。裁判のときも裁判所に行くつもりはありません」と言いました。私はがっかりしました。

それにしても、手塩にかけて育てた息子を、そんなに簡単に見捨てることができるものでしょうか。そんなことは絶対にないと思います。おそらく父親は、これまで何度も注意したのにまた盗みをしたので、今回は刑務所に行かせてきつくお灸をすえる腹を固めたのでしょう。

そのあとで私は本人に面会に行き、父親の言葉を伝えました。すると、本人は案外あっさりと「やむをえませんね」と言いました。しかし、私はこのとき親子の絆がぷっつりと切れる音がしたような気がしました。

私には父親の気持ちがよく分かります。「親子の縁を切る」という言葉は言ってはならない言葉です。しかし、父親としては息子を立ち直らせるためにはこれしかないと、心を鬼にして言ったのでしょう。

息子はこの言葉をどう受け止めたのでしょうか。なぜ助けてくれないのかと父親を恨むようであれば、服役しても更正の見込みはありません。しかし、心から反省したのであれば服役後に更正する見込みがあります。私自身も弁護人の立場を離れ一人の人間として、本人に説教をして人の道を教えようと思っています。
posted by kuraben at 18:21| 倉田弁護士